「もっと変化球を覚えたほうがいいんじゃない?」
お笑い芸人・杉浦双亮の挑戦記<6>
共有する思い。それがあるから楽しかったんだ。<全4ページ>
野球が好きだ。プロになりたい。
現役の選手たちが面と向かって打ち明けてくれたことは心からうれしかった。
技術や体力は劣るかもしれないけれど、夢を追う気持ちを共有することができたからだ。トライアウトを受ける選手たちと話をし、一年間アルバイトを一生懸命にこなして20万円を超える受験費用を捻出したものや、仕事をやめてまで受けに来るものなど、決して簡単ではない夢に寄り添い、そして努力していく力のある人たちばかりだということを知った。
それはいま、現役でプレーする選手たちも同じなのだろう。もちろん、トライアウトを経ず入団した選手もいる。でも、根底にある思いはみな共通なのだ。
野球が好きだ。プロになりたい。
トライアウトを受けるライバル。現役選手。立場は違っても、話せば話すほど、野球の魅力を再確認し、ここで一緒にプレーできることを幸せに感じた。
休養日となった3日目は「衝撃」を受けた日でもあった。
登板がないことはあらかじめ決まっており、僕はファーストコーチャーを買って出た。そしてグラウンドから見た対戦相手、Aチームのピッチャーのボールに衝撃を受ける。
「すっげえ、速い! 変化球すっげえ曲がる!」
けれど、試合に入ってもっとびっくりした。まず、そのピッチャーの球速が140キロ前後だったこと。平均すると130キロ後半といったところだと思う。
「これだけ近くで見て、ものすごい速さに感じるのに140キロ出るか出ないかくらいなのか……140キロってそんなに高い壁なのか!」
レベルの高さに戸惑っていると、目の前でもっと信じられないことが起きた。このピッチャーが、初回で大量失点を喫するのだ。7点だったか8点だったか……。覚えているのは、打つわ、打つわで止まらない打線のことのみ。唖然として、そして一気に不安が押し寄せてきた。
「俺より全然速い球で、ものすごいカーブを投げているのに抑えられないなんて、大丈夫か、俺!」
ファーストコーチャーは、バッターが出塁するとそのバッターから肘や足首につける「プロテクター」を受け取るのだけど、次々と渡されるプロテクターを受け取りながら、「野球の恐ろしさ」を肌で感じていた。
「打たれる原因はなんだろう……」
そんなことを思いながら、目の前で繰り広げられる異次元の世界に圧倒されていた。